潮来市にある愛友酒造さんは創業1804年なので、長い歴史の中に埋もれたものがたくさん眠っている。兼平社長がダンボールを開けると、お酒を包む柔らかい紙が大量に出てきた。その包み紙は、誰がいつ作ったものなのか、まったくわからないという。

あまりに大量にあるその包み紙を、惜しげもなく丸めて緩衝材として使っているのを見て「もったいない!」と声に出してしまった。その紙に描かれている図柄は、とても日本的で美しいデザインだったのだ。当然、いつの時代の包み紙かわからないので、データもない。これもまた、データ化して現代に蘇らせなくてはと思い、1枚いただいて帰った。

一升瓶の包み紙。今はない古い住所「行方郡潮来町」が印刷されている。

愛着を持って着てもらえるTシャツを

よくお客さまやお得意さまに「愛友さんのTシャツないの?」と聞かれるという。兼平社長も「Tシャツ作りたいんだけどね」と言う。ならば、作りましょう、夏が終わる前に!と、Tシャツ制作の話が持ち上がった。老舗酒蔵らしい、定番のTシャツは常に販売してもいいし、毎年新しいデザインで作ってもいい。Tシャツは、何より広告になる。

愛友酒造さんで、今年発売から29年目を迎えた「友寿」という日本酒がある。長年愛され続けたこの「友寿」のTシャツを作ったことがあったと聞き、見せていただいた。いかにも外国人が好みそうな日本酒Tシャツだ。お酒の原料となる酒米を育てている潮来市の農家さんが、普段からこのTシャツを愛用していて、東京へ行く時も堂々と着て歩いていると聞いた。それだ。そういう、愛友酒造さんと関わる人が、愛着を持って着たくなるTシャツを作りたい。

包み紙をTシャツのデザインに

日本酒の包み紙をスキャンして、トレースし、細かく修正してようやくデジタル化できた。この日本酒のラベルに使われそうな、日本的なデザインをTシャツの背面に印刷しませんかとご提案させていただいた。

シルクスクリーン印刷の場合、薄い濃度は再現できないので、松の図柄の部分は網点に。うまくインクが乗った。

左胸には、あの酒樽の図柄と「二升五合」の文字を入れることにした。ここに至るまで、いくつものデザイン案が作っては消えていった。最終的にこの形にまとまったのは、兼平社長が「こんなものを見つけた」と持ってきてくれたコースターだった。そこには「二升五合」と書かれていた。

二升は、升が二つ。つまり「益々」を意味する。五合は、一升の半分で半升。つまり「繁盛」の意味。二升五合=益々繁盛の意味で、商いを営む方などに広く知られていると教えてくださった。

細かい酒樽の図柄は、シルクスクリーンでうまく描けるかが心配だった。Tシャツ屋さんと何度もデータの修正と確認を繰り返して、ようやく最終形に。
あの古い風呂敷の図柄がTシャツに蘇った。

刺繍の織りネームを付ける

もう一つ、このTシャツは織りネームを縫い付けることにこだわった。日本酒デザインのTシャツであることと同時に、それが愛友酒造のものだと知って欲しかったのだ。それで「愛友」のロゴと、外国の方にもわかるように「AIYU」の文字、さらに読みやすいように「あいゆう」とひらがなで刺繍を入れた織りネームを制作した。

刺繍にこだわった織りネーム。老舗酒蔵の新しいアパレルブランドの試みには欠かせなかった。

織りネームには印刷したものと刺繍とあり、愛友酒造さんのような歴史ある会社には、本格的な刺繍で仕上げたかった。ダマスク織りで少し光沢のある生地、リサイクル糸を90%以上使用した自然にやさしい織りネームだ。20、30と作ったデザインの中から、結局シンプルなものに落ちついた。

イメージ通りの織りネームがができあがってきて、Tシャツの左裾に一つ一つ縫い付けていく。当初、この縫い付け作業は、縫製工場に発注しようと思ったのだが、Tシャツ100枚ならば!と最後まで自分で仕上げることにした。縫い付けるにあたって、洋裁の仕事をしている友人からアドバイスをいただいたりして、とても感謝している。

提案したからには、最後まで仕上げる。心を込めて縫っていく。

老舗酒蔵発のアパレルブランドを作りたかった

今回、酒蔵らしいTシャツを作るというより、創業1804年の老舗酒蔵がアパレルブランドを作る新しい試みとして、発信したいと思った。この試みは、八代目当主が女性であることも大いに関係している。兼平社長の女性らしさが、このアパレルブランドの6色展開であったり、包み紙や風呂敷の図柄をデザインに採用するなど、遊び心のあるものになった。

夏に間に合った

Tシャツはオンラインショップでも販売される。Tシャツをお届けに伺ったときに、ちょうど天気もよかったので撮影することになった。酒蔵には信じられないくらい巨大な桶や釜があったりしておもしろい。そうした、酒蔵の日常的な風景の中で、撮影をした。

まずは、愛友酒造の社員さんにTシャツが配られた。それから、丁寧に袋詰めして早速店頭販売がスタートした。一部は、道の駅いたこでも販売される。オンラインショップでも販売準備が整った。

多くの方の目に止まって、着てもらえたらうれしい。夏に間に合った。

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