マーブル食堂

鹿嶋に家を建てるとき、カフェができるように設計をした。といっても、今すぐカフェを開店させたいのではなく、老後のため。還暦を迎えた頃、自分が今のようにITの仕事をバリバリやれているかというと、多分それは無理な話で、何かしらの仕事をして生きていくなら、大好きな紅茶のお店を持ちたいと考えていた。

カフェをやるためには、保健所への申請と立会が必要になる。改築なしで検査をクリアできるように、あらかじめキッチンには手洗い場を別に作っておいた。トイレやキッチンの配置などにも配慮して、綿密に設計をした。

サッカーの町、鹿嶋だから玄関には国立競技場のマンホールを埋め込んだ。これは解体工事が始まる頃に販売され、瞬殺で売り切れた大変マニアックな代物だ。世界のマンホールを眺めて歩くのが趣味なので、本物のマンホールが手に入るとあって、発売当日は気合いを入れて購入に挑んだ。当初、工務店さんがこのマンホールを「玄関にコンクリートで固めよう」と提案してきたので頑なに拒んだ。冗談じゃない。私の宝物を固めてしまっては、いざというときに持ち出せないではないか(いざという日が来るかはさておき)。話し合いの後、金枠を作ってもらい、マンホールをはめ込み、ライトアップできるように照明まで設置したものの、マンホールは玄関に馴染みすぎていて、その存在に気づく人がほとんどいない。残念である。

 

お客さんがどの席に座ってもテレビが見れるようにした。これは、サッカーなどパブリックビューイングできるようにしたいという思いがあったからだった。試合の反省会もできる。

日当たりのいい窓辺のソファ席には、ティーカップが置けるように折り畳みの小さなテーブルを取り付けた。日が暮れたら手元を照らす読書灯。足下にはスマホを充電するためのコンセントが必須。カウンター席にもお客さまの手元にコンセントを設置した。

電車席は、電車に揺られながらお茶するイメージで、この設計のために私はいつもメジャーを持って旅をしていた。あらゆる電車に乗っては、人目を盗んでスッと座席の高さ、奥行き、肘当ての高さなどを測りまくっていた。壁に取り付けた肘当ては、大工さんは首を傾げていたけれど私にとって絶対必須であった。上げ下げ窓や網棚、コートを掛ける真鍮のフックに至るまで、こだわり抜いた電車席。私が利用したいカフェをイメージしたら、こんな形になった。

 

2017年10月21日、食品営業許可証をいただいた。「マーブル食堂」という名称で申請したけれど、これは「CAFE MARBLE」「喫茶マーブル」なんでもよかった。還暦にはまだ時間がある。当面の間はこのマーブル食堂で、食のイベントなど不定期でやっていきたい。

 

この鹿嶋はサッカーと海と工場地帯があるだけの田舎町だけど、新鮮で良質な食品を簡単に手に入れることができる。ここに引っ越してきて2年、食生活だけは驚くほど改善された。銚子港も近いので、スーパーの魚売り場には安くて新鮮な魚が多く並んでいる。野菜の値段が高騰しているというニュースも、この町ではそれほど影響がない。

いつも、何を始めるにしても「今日から始めます!」というふうに日時を決めない。会社を始めるときもなんとなくスタートして、なんとなく10周年が過ぎ去った。マーブル食堂も、ぼんやりとしたイメージを淡々と形にして、営業許可を取った。プレオープンのパーティもない。盛大なお祝いはやらない。

ひっそりと、本格的な紅茶のお店をやりたい。世界中のおいしい紅茶が飲めるお店。これからも世界を旅して、紅茶の研究は続けていく。還暦を迎える頃には、考えが変わっているかもしれない。アスリートフードマイスターの資格も生かしたい。とにかく、小さいことをきちんと、きちんと、形にしていきたい。

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1 コメント

  1. Mieko

    ここまで利用者のために細部までこだわり抜いたカフェ。素敵です。

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